AIに古文書の山を渡したら、ニュートンの錬金術の出どころを示す手がかりが出てきた。米カリフォルニア大学サンタクルーズ校の歴史学者ベンジャミン・ブリーンは9月24日、今週出たばかりのGPT-6とClaude Opus 5.5に歴史の謎を解かせた結果を、自身のニュースレター「Res Obscura」で報告した。
ニュートンの暗号と同じ暗号
ブリーンによると、Opus 5.5 が取り組んだ題材のひとつは、17世紀ロンドンの情報通サミュエル・ハートリブの文書だった。ハートリブは王立協会の初期の中心人物のひとりで、各国の学者から届いた知らせを書き留めていた。
Opus 5.5 はハートリブの文書庫から5000点を超える史料を集め、補助のAIを何体も使って手分けして調べさせた。ハートリブが名前を伏せて書き留めた知らせを各国語の本と照らし合わせ、出どころを突き止めるためだ。
調べるうちにOpus 5.5 は、ニュートンとハートリブが同じ錬金術の材料「ハンガリーの緑礬(りょくばん)」を、それぞれ別の暗号で書いていることに気づいた。ニュートンは緑礬のラテン語「vitriolum」の文字を並べ替えて「Vltimorui」と書いた。ハートリブは単語を逆さに書くような形で「Miloirtiua riciragnun」と書いていた。ブリーンは「自分では絶対に気づかなかった」と書く。
2人の文書は、材料の分量もほかの記述も一致していた。ブリーンはこれを、ニュートンが下敷きにしたのはハートリブの写本だった、という「非常に説得力のある証拠」とみる。そして「私の知るかぎり、これは実際に新しい発見だ」と書いている。
ブリーンがGPT-6を使って調べると、ニュートンがフランス語の錬金術書からラテン語へ意訳した一節が、その錬金術書のどこから来たのかもわかったという。これまで誰も指摘していなかったようだ、とブリーンは書く。
天使の言葉の書はでたらめだった
エリザベス朝の魔術師ジョン・ディーは、霊媒役のエドワード・ケリーを通じて天使と話していると信じていた。ケリーが「天使の言葉」で書き取ったとされる謎の書がある。
ブリーンがGPT-6に読ませると、GPT-6は「暗号ではない。ほとんどが意味のない音の並び」と判定した。AIは同じ文字がどれだけ繰り返されるかを数え、ディーの日記と突き合わせた。するとケリーが途中から手を抜きはじめ、同じ音を繰り返すようになったことまで見えてきた。
GPT-6は、でたらめの中に1か所だけ、ディーたちの作った神話に出てくる天使の名前「ボルノゴ」を指す箇所があることも見つけたという。
答え合わせで確かめた暗号の手紙
ブリーンがこの報告を書いているあいだにも、Opus 5.5 は16世紀のスペインの手紙2通を途中まで解読した。神聖ローマ皇帝カール5世の秘密の暗号で書かれた手紙だ。
実はどちらも、すでに解読されていた。1通は1530年代に書かれたその時代に、もう1通は1916年に解かれている。ブリーンは、それがかえってよい試験になったと書く。Opus 5.5 は1916年の解読文を見つけ出し、自分の読みが正しかったことを確かめた。
AIが解ける歴史の謎
ブリーンによると、AIが力を発揮するのは、答えが正しいかどうかを確かめられる問題だ。暗号の解読、翻訳をまたいで文章を追いかける仕事、別々の分野に散らばった発見同士をつなぐ仕事がそれにあたる。ブリーンは、1年前まではこうはいかなかったと書く。
一方でブリーン自身は、史料を自由に読めないせいで、試すたびに行き詰まったという。デジタル化されていても、特別な権限がないと読めない史料が多い。そもそも近代より前の写本の大半は、まだデジタル化されていない。ブリーンは、大手のAI企業や財団が、史料のデジタル化と歴史学者の計算資源に資金を出すべきだと訴えている。
こうしたAIは、解けると見た問題をとことん追いかける。ブリーンはその執拗さについて、OpenAIが試験していたAIが答えを求めてHugging Faceのシステムに入り込んだ一件を思わせると書いている。
ブリーンがしたのは、ひとりでは一生かかっても読みきれない量の古文書をAIに渡し、何百年も誰も気づかなかったつながりを探させることだった。ブリーンはこの使い方を「視野が広がり、好奇心がかき立てられる」と書いている。
出典
- AI labs need to start funding historical research(Benjamin Breen、Res Obscura、2026年9月24日)