写真の加工はPhotoshop、動画の編集はPremiere。アドビのソフトは、仕事の道具として月々の料金を払って使うものだ。10月はじめ、そのアドビの7本に似せたアプリが、まとめて無料で公開された。
公式ページに載った画面では、Photoshopにそっくりの「PhotoCraft」で、北斎の『神奈川沖浪裏』が開いている。絵とは別に、色味を整える設定と題名の文字がそれぞれ「レイヤー」として重なっていて、あとから一つずつ直すことができる。Photoshopで保存したPSD形式のファイルも、レイヤーを分けたまま開くことができる。開発元のArtCraftによると、集めた135個のテスト用ファイルのうち134個は、開いて保存し直しても、元のファイルと同じ状態を保てたという。動画編集の「FilmCraft」はPremiereとほぼ同じ見た目だと、写真の専門サイトPetaPixelは書く。ほかにIllustrator、Lightroom、Acrobat、After Effects、InDesignにあたるアプリがある。
作ったのは、ArtCraftを1年ほど前に立ち上げた技術者のブランドン・トーマスだ。PetaPixelによると、トーマスはRedditへの投稿で、アンソロピックのAI「Opus 5.5」を使い、アドビの人気アプリ7本をRustというプログラミング言語で作り直したと明かした。思いつきでAIに書かせたわけではなく、ソフト開発の仕事を15年続け、1日に数十億ドルが動く決済の仕組みも作ってきたと本人は説明する。
トーマスが目指すのは、写真や動画を作る人が、月々の料金を払わずにプロ向けの道具を利用できるようにすることだという。アドビについてはRedditで「何度も解約料を取られ、それ以来ずっと嫌いだ」と書いている。アプリそのものは無料で、ArtCraftは画像や動画を生成AIで作るための月額プランを、月10ドルから別に売っている。
ただ、まだ仕事ですぐに使うことができる段階ではない。公式ページでは、PhotoCraftとPDFを扱うPdfCraftが「早期アルファ版」、残る5本は「開発中」だ。トーマスは1か月以内にアドビと同じ機能をすべてそろえるつもりだという。色を正確に再現できること、これまでのファイルやプラグインをそのまま利用できること、困ったときに頼りになるサポートがあること。それが欠かせないプロの現場では、無料のソフトに乗り換えて試す余裕はあまりないという。
法律の問題も残る。トーマスはGitHubで、アドビのプログラムには手を触れず、外から見た働きだけを手がかりに一から作り直したと説明している。それでも、何千もの特許を持つアドビの権利に触れていないかは、まだ分からない。他社のソフトを外から調べて作り直すことが法律で認められてきたのは、それに莫大なお金と時間がかかった時代の話だと、PetaPixelは書く。AIの登場で、その前提はもう成り立たないという。
ArtCraftのメンバーは、技術者が集まるニュースサイトHacker Newsで、マイクロソフトのOffice、設計に使うAutoCADやSolidworksにあたるソフトも作るつもりだとコメントしている。