AIのモデルは、新しい版が出るたびに賢くなったと言われる。値段の表に前と同じ数字が並んでいれば、支払いも変わらないだろうと考えるのが自然だ。だがグーグルが9月2日に出したGemini 3.8 Flashは、単価を据え置いたまま、1件の仕事にモデルがより長く時間をかけるように作られている。これは安くなったと言えるのだろうか。
単価が同じでも使うトークンは増える
100万トークンあたりの値段は、前の版の3.7 Flashと変わらない。だがグーグルは、複雑な仕事ほどこのモデルが推論の手数を足してツールを何度も呼び直すため、使うトークンが増える場合があると公式ブログで説明している。
グーグルの言い方では、3.8 Flashは「より熱心に働く」。難しい課題に当たると途中の推論を余分に回し、道具を繰り返し叩く。効き目を最大にするための設計で、手数の設定を高くしたときほどトークンの消費が伸びる。単価が動かなくても、1件あたりの請求は前の版より重くなりうる。
計算の量を抑えたい側には逃げ道も用意されている。手数の設定を下げるか、3.7 Flashをそのまま使いつづければよい。3.7 Flashは効率を優先する用途向けに、引きつづき提供される。
3週間ぶりのFlashはベンチマークでも上位に並ぶ
3.7 Flashが出てから、まだ3週間しか経っていない。6週間でFlashが3本という速さだ。
賢さの中身は、ベンチマークの数字で示されている。長い手順のソフト開発を最後までやり切れるかを測るDeepSWE v1.1では、値段のずっと高い大型モデルの多くを上回った。金融の実務を模したVals Finance Agent V2と、法務の判断を試すHarvey’s Legal Agent Benchmarkでも、前の版や他社の上位モデルより高い。理系から人文、専門職にまたがる多段の推論を問うHLE-Verifiedでは54.9%を記録している。いずれもグーグルが公表した数字で、編集部で動かして確かめたものではない。
脆弱性を見つける版は守る側にしか渡らない
Gemini 3.8 Flash Cyberは誰でも使えない。グーグルはFairwind Programという新しい受付を作り、政府の当局、重要インフラの運用者、ソフトの保守者に絞って優先的に渡す。
土台の知能は3.8 Flashと同じで、違うのは安全のための制限のかけ方だ。通常版には、化学、生物、放射性物質、核(CBRN)とサイバー攻撃への悪用を止める仕掛けが積んである。Cyber版はサイバー分野の制限をゆるめてあり、そのぶん配る相手を絞る。
グーグルは、攻撃の能力より修正の能力を先に伸ばしたと書いている。脆弱性を見つけて終わりにせず、直すパッチまで自動で作らせる。C/C++のコードを対象にした業界標準の指標CyberGymでは、前のCyber版と、はるかに大きな他社モデルを上回った。20の言語にまたがる社内の指標では、成功率が70%を超えている。パッチ生成を見るCWE-Benchでは、1回目の解答で通った割合が47.2%で、首位のモデルの47.8%にほぼ並びながら費用は大きく下がる。
社内での使い方も公開されている。Chromeのセキュリティ担当は、はるかに大きい市販モデルの最良のものと比べて、正しいパッチが2.6倍出たと報告した。Google Cloudの脆弱性研究チームは、通常なら調査に数か月かかる根幹の脆弱性を、2時間かからずに見つけたという。いずれもグーグル側が示した数字で、編集部の検証ではない。
使いはじめる窓口はもう開いている
3.8 Flashは、開発者向けにGemini APIとGoogle AI Studioから、企業向けにGemini Enterpriseから使える。Google AI ProとUltraの加入者は、Geminiアプリ、Google検索のAIモード、Googleスプレッドシートで同じモデルに当たる。
開発者には入口がほかにもある。エージェント中心の開発環境Google Antigravity、Android Studio、画面を組み立てるStitchからも呼び出せる。
守りの話は、Cyber版だけに閉じていない。外部から紛れ込ませた指示にモデルが引きずられてしまうプロンプトインジェクションへの耐性が、Gray Swanという外部の測定で大きく上がったとグーグルは書いている。ここは3.8のGeminiを使う全員に効く。
Cyber版を使いたい組織は、グーグルの発表から申し込む。政府の当局、重要インフラの運用者、ソフトの保守者へ優先的に渡すと書かれているが、どこまでの組織が通るかは公開されていない。
同じ土台から生まれた2つのモデルは、片方が加入者の画面に届き、片方は申請の先に置かれることになる。
出典
- Introducing Gemini 3.8 Flash and 3.8 Flash Cyber(blog.google、2026年9月2日)